料理と器に想う
料理するにあたり切っても切れないものに器があります。
それこそ多種多様で形や用途が異なる世界で、だからこそ興味そそられ深みに嵌るのでしょうね。
あなたもこんな世界にご興味お持ちでしょうか。
遠く古の名もなき陶工が手掛けた素朴な器があります。
幾世にも人から人の手に渡り、数々の食卓に並べられ、その家族の健やかな毎日を見守ってきたことでしょう。
また一人仄かな灯りのもと、季節毎の質素な酒肴を前に、掌に馴染む猪口に、とろりとしたぬる燗の酒を満たす徳利があります。
一人であっても仲間と一緒であっても、こうした酒器は個人の好みや思い入れが強いものです。
また塗りの食器も、私達日本人の食卓には欠かせないものです。
盆や汁椀に箸に至るまで、日本各地に細々とその技法を伝承する産地があります。
今や昔ながらの室(ムロ)を持つ職人はわずかで、その材料の木も漆も、プラスチックにカシューなど人工的なものにとって変わりました。
いわゆる骨董と呼ばれる手書きの食器類から、ご縁ありお譲りいただいた作家さんの一点もの、大量生産されるプリント焼きのものにも思い出深いものが多々あります。
私の教室に長年置かれ、毎日の食事や会食に出番あった器に、ひっそりと奥で料理を盛る機会待つ器、気に入って購入したもののその晴れ姿を披露する事ないものまで、いったいどれだけの器が眠っているかわかりません。
そんな機会異なる器を、せめて出番来るまでの間、この場にその姿を留めておこうと考えました。
たち吉 青磁輪花小鉢
この器は記憶が正しければ、料理の世界に足を踏み入れ、最初に自腹切り購入した器です。
貫入が入り見た目よりはかなり重いものです。
よくこうした貫入が特徴の器は『育つ』と言い、使ううちに水気が中に染み入り色目が変わってきます。
買った当初と比べ色が濃くなった様に感じますが、こうした『景色』と言う姿や見た目が変わるのも魅力のひとつです。
この後、たち吉の食器はあれこれ買い揃えましたが、引き出物の品として出回る様になってからは次第に魅力が薄れてしまいました。
六音窯 共柄急須 / 呉須酒器 / 手彫り 丸盆
この急須は地元長崎の大村は多良岳の麓で、作陶している松尾氏によるもの。
直火にかけることができるので、薩摩焼の焼酎飲みが使う千代香(じょか)の様に、予め水で割った焼酎をストーブの上に置き熱燗にします。
この急須の大きさが、まろやかな当たりゆえに杯が嵩むのを、抑えてくれます。
これを楽しむのには大振りの器でなく、敢えてこのサイズの猪口に決めています。
やや熱めのものをその都度注ぎ、口に運ぶのに頃合いの大きさなんです。
時代はわかりませんが江戸末期か明治の器でしょう、手書きされた紋様は歪で、描き手の遊び心が想像されます。
手彫りの鑿(ノミ)の跡が残る丸盆は、いまやライヤー作家で著名な鬼塚氏の作品。
丹念に硬い木に刀を当て磨き、油を塗り込み仕上げられた素朴な盆です。
一緒に購入した長崎では「バンコ」と呼ぶ、二人掛けのベンチに、3本足のどうかすると後ろにひっくり返るような、味のある椅子の大小があります。
手作りの無骨さと優しさに満ちたお気に入りの一点です。
鶴文様 漆器汁椀
今回最後にご紹介するのは塗りの汁椀です。
骨董の世界に足を踏み入れたばかりの頃、店を見つけては訪ねて廻っていた中に、呉服の品と一緒に商う店でこの器と出会いました。
その文様に色使いにやや大振りの形に、すぐに惚れ込み迷わず購入しました。
私達日本人の心には『鶴の恩返し』の様な童話の世界が幼心に刻まれ、また霊鳥として鶴を吉祥と長寿の象徴として見ることがあります。
重箱や皿に椀物に美しい鶴を描いたものを持っておりますが、日本人としてのルーツを想い出すのに大切なものです。
今回はこのくらいにして、またいつか続きを書こうと思います。
料理を作りそれを何がしかの器に盛り食す。
その行為にはそれを行う人の生き様が出てしまいます。
今や百均の器も魅力的ではありますが、この世には手で土を捏ね足でろくろを蹴り、様々な釉薬を編み出して焼かれる器もあります。
皆さまにはこの世に生を受け同じ毎日を送るのに、こうした職人の気持ちが入った器を使っていただきたいものです。
この日本の伝統文化や職人の技を後世に伝えるには、日頃のあなたの選択が問われているのですから…
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